騒動の余波(大王製紙)

まったく不思議な適時開示です。


『監査法人による過年度決算調査の過程において指摘された事項に基づく過年度有価証券報告書、決算短信等の訂正に関するお知らせ』

これらの事項はいずれも元会長への貸付とは無関係であり、当該事象が発生した過年度の監査の時点で指摘がなされておらず、本年12月14日に予定しております本年度第2四半期決算の発表間近のこの時期に至ってはじめて、指摘されたものであります。

いやもう、監査法人に対する恨み節が行間、いや、文中ににじみ出ていますね。
そして、見積等に関する判断の変更ばかりですが、判断を変更する根拠となる事実が新たに12月に判明したならともかく、単に監査法人が態度を変えたのでは、と思うような内容ばかりです。


1.繰延税金資産の計上額の訂正

ところが、監査法人は、本年12月2日に当社に対し、当社の最近の毎期の課税所得の水準と比較して、平成23年3月期の税務上の繰越欠損金の額が多いため、平成23年3月期の繰越欠損金は「重要な税務上の繰越欠損金」にあたり、当社は66号の会社区分4に該当すると指摘しました。
会社区分4であれば、翌期の課税所得の見積額(1年分)を限度として繰延税金資産を計上することになります。
当社の計画では今期の通期では課税所得がある見込みとしていましたが、監査法人から、上場有価証券の減損等により課税所得が生じない可能性があるので、5年分の課税所得見積額の繰延税金資産を取り消すべきであるとの指摘がありました。

このような指摘は、平成23年3月期の決算でなされるべきです。


2.固定資産売却取引の取消し

当社では、平成15年3月期に、倉庫の荷役作業を請け負わせている持分法非適用の関係会社に対し、当社が保有していた倉庫用地を売却し、同期の決算において固定資産売却益1,472百万円を計上しました。
しかしながら、この取引に関しては、売却代金が延払いであったため所有権留保を行っており所有権の移転登記がなされていないこと、延払いの期間も30年という長期であるこ
と、及び売却した土地を当社が賃借していること等から、本年12月2日に、監査法人から当社に対し、当該取引については実質的に譲渡が実現していなかったとの指摘がなされました。

これは監査ミスではないでしょうか。セール・アンド・リースバックの典型例です。


3.非上場関係会社株式の減損損失の計上

しかしながら、監査法人は、本年12月2日に当社に対し、非上場関係会社株式の減損について、回復の判定をするための事業計画の期間を5年とし、また、実質価額の回復の程度を帳簿価額までとするというより厳格な基準に基づき、改めて非上場関係会社株式についての減損の判定を行うべきであるとの指摘がなされました。

なぜここにきて基準が厳格になるのかが疑問です。
本来は過年度に指摘すべき事項でしょう。


4.関係会社への貸付金及び債務保証等に対する事業損失引当金の計上

当社はこれまで、関係会社に対する貸付金の回収可能性、及び債務保証の履行可能性の判断に関しては、当該関係会社の株式の減損損失を計上した場合でも、関係会社の事業は引き続き継続するので回収可能性があると判断し、貸倒引当金及び債務保証損失引当金を計上しておりませんでした。
本年12月2日に、当社は監査法人から、関係会社が株式の減損処理が必要な状態に陥っている場合には、融資及び債務保証についてもその回収可能性や履行可能性を踏まえ、引当金の計上の要否を検討し、かつ、当該関係会社が債務超過に陥っている場合には、債務超過の解消が確実に見込まれる場合を除き、債務超過額について引当金を計上するべきであるとの指摘を受けました。

これを読む限り、IPO準備会社が初めて監査または予備調査を受けての指摘事項を読んでいる気がしました。


5.子会社における固定資産の減損

監査法人が本年12月7日に実施したエンジに対する投融資の評価の検討の結果、同社の純資産が平成20年3月期に取得価額の50%を下回り、平成21年3月期には債務超過に陥っていることが発見されたとして、本年12月7日に、監査法人から当社に対し、平成20年3月期においてエンジが保有している固定資産に減損の兆候が生じていたため、同中間期に遡ってエンジが保有する建物等の償却性固定資産の全額を減損損失として計上するべきであるとの指摘がなされました。

もう絶句レベルです。


記載内容を見る限り、ここにきて監査法人がミスに気づいたあるいは過年度にくらべて判断を厳格化した内容ばかりです。
監査の信頼性におおいに疑問符がつく事項ばかりです。


なぜここにきて監査法人が判断を厳格化したのでしょうか。
三者委員会で監査法人の貸付金に対する手続や対応の甘さを指摘されており、監査人は当期限りで交代すると思われますが、そうなると後任の監査人に引継ぎをしなければなりません。
そこで、後任の監査人から前任の監査の甘さを指摘されないようにここで一気に膿を出したのでしょうか。
あるいは、第三者委員会の調査の過程で指摘されたのでしょうか。


いずれにしても、投資家はまた欺かれたわけであり、監査法人の責任も問われるであろうと思います。



「そのうちわかるでしょう。寝るよ。」